人材紹介会社の新規開拓(BD)は、「リストを作る → 架電・メールする → 決裁者と話す → 契約する」というシンプルな構造です。にもかかわらず成果が出ないとき、原因はたいてい次の3つのどれかに集約されます。この記事では、それぞれの理由を分解し、明日から着手できる具体的な打ち手を、チェックリストやトーク例も交えて整理します。
新規開拓(BD)がそもそもどういう活動かを整理する
人材紹介における新規開拓は、既存の取引企業以外に新しい求人企業を開拓し、契約に至るまでの一連の営業活動を指します。多くの会社では、担当者が業種・地域・企業規模でリストを作り、電話やメールでアプローチし、興味を持ってもらえた企業と商談・契約に進むという流れを取っています。
問題は、この流れのどこかに構造的なボトルネックがあると、担当者個人の努力ではどうにもならない停滞が起きることです。「架電件数を増やせ」「トークを磨け」という精神論だけで解決しようとすると、担当者は疲弊するのに数字は上がらないという状態に陥りがちです。まずは自社の停滞がどの段階で起きているのかを、次の3つの理由に照らして特定することが改善の出発点になります。
停滞の原因を切り分けずに「とにかく頑張る」方向に進んでしまうチームは少なくありません。しかし、リストの質が悪ければどれだけ架電件数を増やしても「募集していない企業への空振り」が増えるだけですし、決裁者に届かない構造のままではトークの完成度をいくら上げても機会損失は解消されません。原因の切り分けこそが、最短で成果を出すための最初の一歩です。
理由1:リストが「採用ニーズ不明」の企業で埋まっている
業種×地域×規模で絞っただけのリストは、見た目は立派でも「採用しているかどうか分からない企業」の集まりです。この状態で架電すると、会話の大半が「今は募集していません」で終わり、担当者の心も折れていきます。
**打ち手:リストの起点を「属性」から「行動」に変える。**求人を出した・採用を再開した・求人を増やしたという行動が確認できた企業だけをリストに載せます。「採用ニーズの有無を電話で確かめる」のではなく、「採用ニーズがある前提で提案する」電話に変わるため、会話の質がまったく違ってきます。この考え方は「採用インテント」と呼ばれ、詳しくは「採用インテントとは」で解説しています。
行動起点のリストに切り替えると、架電の冒頭の会話も変わります。属性起点のリストでは「御社では採用のご予定はございますか」と探りから入らざるを得ませんが、行動起点のリストでは「先日掲載された求人を拝見して」と、確認済みの事実から会話を始められます。この違いは受け手の警戒感にも直結し、結果として折り返しの電話や返信の受け取られ方も変わってきます。
理由2:スピードで他社に負けている
求人掲載は公開情報です。つまり、良い企業ほど競合エージェントも同時に見つけます。掲載から数日経ってからの架電は、「もう他社さんと進めています」という返答に出会う確率が上がります。
打ち手:検知から接触までのリードタイムを測る。「求人が掲載されてから自社が最初に接触するまで何時間かかっているか」を一度測ってみてください。人力巡回で半日〜数日かかっているなら、検知の自動化が最も費用対効果の高い投資になります。接触の中身を磨く前に、まず土俵に早く立つことです。求人媒体の巡回を自動化する具体的な設計は「求人媒体の監視自動化」で解説しています。
スピードを測る際は、平均値だけでなく「最も遅かったケース」にも注目してください。平均は速くても、担当者の休みや繁忙期に検知が数日止まっているような会社は少なくありません。ボトルネックは平均ではなく、遅延が起きた瞬間に生まれます。
理由3:決裁者にたどり着く前に消耗している
代表電話 → 受付 → 人事担当 → 採用責任者、という取り次ぎの階段は、1段ごとに離脱が発生します。そして取り次ぎを突破する努力は、翌日また別の企業でゼロからやり直しです。
**打ち手:接触前に「誰に話すか」を決めてから電話する。**企業サイトの役員紹介、Wantedlyのメンバーページ、プレスリリースの担当者名など、公開情報から採用に関わる人物を特定してから電話をかけます。「採用のご担当者様はいらっしゃいますか」ではなく「◯◯様はいらっしゃいますか」と言えるだけで、受付突破率は体感で大きく変わるはずです。この下調べは1社あたり数分かかるため、ここも仕組み化・自動化の価値が大きい工程です。決裁者への到達方法は「決裁者アプローチの設計図」でさらに詳しく扱っています。
3つの理由をチェックリストで自己診断する
自社がどの理由に当てはまっているかを、次の質問で確認してみてください。
- 直近1ヶ月の架電のうち、「採用の予定を確認する」ための電話が半分以上を占めていないか
- 求人掲載から自社が接触するまでの平均時間を把握しているか
- 架電前に、話す相手の名前や役職を特定できている割合はどれくらいか
- 「他社さんと進めています」と言われる頻度が増えていないか
- リストの更新が週次より遅いペースになっていないか
複数の項目に当てはまる場合、根本原因は1つではなく複合的である可能性が高く、リスト・スピード・接触相手の特定という3つの土台を同時に見直す必要があります。診断結果を個人の反省で終わらせず、チーム全体の改善計画に落とし込むことも重要です。誰か一人が気づいても、リストの作り方やスピードの測定方法がチームのルールとして共有されなければ、同じ停滞が別の担当者でも繰り返されてしまいます。
リストの質を測る指標
「リストが良いかどうか」は感覚で語られがちですが、実務では次のような指標で定量的に確認できます。
| 指標 | 見るポイント |
|---|---|
| 応答率 | 架電した企業のうち、担当者につながった割合 |
| アポ獲得率 | 応答があった中で、商談につながった割合 |
| 「募集していない」比率 | 架電のうち、そもそも採用ニーズが無かった割合 |
| リストの鮮度 | リスト作成から架電までの平均経過日数 |
「募集していない」比率が高いチームは理由1(リストの起点)、応答率は悪くないのにアポ獲得率が低いチームは理由2(スピード)または理由3(接触相手)に課題がある可能性が高いというように、指標を分解すると、どこから手をつけるべきかの優先順位が見えてきます。
メール文例で見る「探り」と「提案」の違い
理由1で触れた「行動起点」の考え方を、実際の文面で比較してみます。
属性起点(探り)のメール例:
「貴社の事業内容を拝見し、ぜひ一度お話しさせていただければと思いご連絡いたしました。採用に関するお困りごとがございましたら、お力になれるかもしれません。」
行動起点(提案)のメール例:
「先日、貴社が◯◯職の募集を新しく開始されたのを拝見しました。同職種の人材紹介支援の実績がございますので、母集団形成の面でお力になれればと思いご連絡いたしました。」
前者は当たり障りがない分、読み手にとっては「よくある営業メール」の一つとして流れやすくなります。後者は「うちの求人を見て連絡してきた」という具体性があるため、開封後も読み進めてもらいやすくなります。この違いは、リストの起点を変えるだけで自然に生まれるものであり、文面のテクニックを磨く以前に、そもそも何を根拠に連絡しているかという設計の差が結果を分けています。
新規開拓のKPIをどう設計するか
新規開拓の停滞は「架電件数」という単一の指標だけを追っていると見えにくくなります。件数を積んでいるのに成果が出ないチームほど、次のようなファネル型の指標で工程ごとの歩留まりを分解して見る必要があります。
- リスト件数:行動起点でスコアリングされた企業がどれだけあるか
- 接触率:リストのうち、実際に架電・メールできた割合
- 応答率:接触したうち、担当者や決裁者と会話できた割合
- アポ獲得率:会話できたうち、商談化した割合
- 受注率:商談のうち、契約に至った割合
この5段階を分解すると、「どこで数字が落ちているか」が一目で分かります。たとえば接触率は高いのに応答率が低いなら理由3(決裁者への到達)が課題ですし、応答率もアポ獲得率も悪くないのに受注率が低いなら、それはこの記事で扱う新規開拓の範囲ではなく、商談以降の提案力の課題である可能性が高いといえます。KPIを工程ごとに分けて見る習慣が、精神論に頼らない改善の土台になります。
架電スクリプトの型を見直す
土台が整った後にトークを磨く際、次のような型を意識すると、行動起点のリストの価値を最大限に活かせます。
- オープニング:観察した事実(新規掲載・採用再開など)から入り、探りの質問を避ける
- 課題への言及:「今回の募集で難しいと感じられている点はありますか」など、相手が話しやすい問いかけを用意する
- 実績の提示:同職種・同業界での支援実績を、抽象的な自慢話ではなく具体的な状況として伝える
- 次のアクション:「一度オンラインで15分お話しできますか」など、負担の小さい次の一歩を明確に提示する
この型はあくまで骨格であり、一言一句を覚えるものではありません。大切なのは、行動起点の情報が既にある前提で会話を組み立てることで、「探りのための質問」を減らし、相手にとって意味のある会話の時間を増やすことです。
新規開拓が停滞したときのよくある誤解
停滞したチームでは、次のような誤解が原因になっていることがあります。
- 「架電件数を増やせば数字は上がる」という誤解:リストの質が低いままでは、件数を増やしても「募集していない」比率が高いまま積み上がるだけです。
- 「良いトークがあれば決裁者に届く」という誤解:どれだけトークが優れていても、そもそも決裁者に取り次がれなければ発揮されません。接触前の人物特定が先に必要です。
- 「新規開拓は担当者の経験と勘に依存するものだ」という誤解:経験は確かに有効ですが、リストの起点・スピード・接触相手の特定という土台は仕組み化できる部分であり、属人化させておく理由はありません。
- 「一度リストを作れば当分使える」という誤解:採用インテントには鮮度があり、リストは日々更新され続ける必要があります。数週間前のリストを使い回すと、既に他社が接触済みの企業ばかりになりがちです。
改善の順番を間違えない
トークスクリプトの改善やメール文面のABテストは、リストとスピードが整った後にやるべき打ち手です。「誰に・いつ当たるか」が7割、「何を話すか」が3割。停滞しているチームほど、先に土台(リストの質・検知の速さ・接触相手の特定)を直すことをおすすめします。
土台が整っていない状態でトークだけを磨いても、そもそも会話の機会(決裁者につながる、募集している企業に当たる)が少なければ改善の効果は限定的です。逆に土台さえ整えば、多少トークが粗くても「募集している事実」を起点にした会話は成立しやすく、結果として数字は動き始めます。焦って表面的な改善に手を付ける前に、まず自社のボトルネックがどこにあるかを見極めることが、遠回りに見えて最も速い改善の道筋になります。
まとめ
人材紹介の新規開拓が停滞する理由は、多くの場合「リストの質」「スピード」「決裁者への到達」という3つの土台のどこかに集約されます。最後にもう一度、それぞれの打ち手を整理します。
- リストの起点を属性から行動(採用インテント)に変える
- 検知から接触までのリードタイムを測り、遅れがあれば自動化を検討する
- 架電前に接触すべき人物を公開情報から特定しておく
この3つの土台が整って初めて、トークやメール文面の改善が本来の効果を発揮します。まずは自己診断のチェックリストで自社の弱点を特定し、該当する打ち手から着手することをおすすめします。
新規開拓は一度仕組みを整えれば終わりではなく、リストの起点・検知のスピード・接触相手の特定という3つの土台を継続的にメンテナンスし続ける活動です。KPIをファネルで分解し、どこで数字が落ちているかを定期的に振り返る習慣をチームに根付かせることが、停滞を繰り返さないための最後の仕上げになります。関連する具体策は「採用インテントとは」「求人媒体の監視自動化」「決裁者アプローチの設計図」もあわせてご覧ください。